離陸中のエンジン故障が最もリスクが高いというお話と、離陸継続後のコースについてお話しました。
ではV1以前のエンジン故障が起こった場合、どうすると言ったでしょうか?
「RTO」ですね。Reject Take Off、離陸中止です。
離陸中止を判断するのは常に「機長」の役割です。
もし副操縦士が離陸操作をしていても、スラストレバーだけは機長が握っています。
離陸中止を判断すると、すぐにスラストレバーをアイドルにしてリバース(逆噴射)を行います。スポイラーは自動的に上がりますが、手動操作を推奨している機種もあります。
ブレーキは最大の効きとなるように踏力を調整しながら(アンチスキッド)自動で作動します。
この操作をしながら、エンジンが1基故障しているので方向修正もしなければなりません。足のペダルはつま先を踏むとブレーキ、踵から踏むとラダーとステアリングを操作します。
この一連の操作を2秒少しで実施できるように訓練しています。
判断を迷っている暇はありません。
離陸時の速度は秒速70m程にもなります。
1秒判断が遅れるだけで、1秒操作が遅いだけで70mの滑走路を無駄にしてしまいます。

躊躇ない判断とスムーズな操作が必須ですので、何度も訓練し、いつもイメージをしながら運航しています。
私は一度だけ、このRTOを実運航で実施したことがあります。
管制からの指示で、直前に上がった飛行機がバードストライクの報告をしたから滑走路点検をする、というものでした。
私の飛行機はTake Off Powerにセットして50KT程度(時速90kmぐらい)に加速したところでしたのでRTOしましたが、その時もなかなかのG変化であったことを覚えています。
フル加速しているところからMAXでブレーキがかかるわけですから、それはお客様も驚かれたと思います。
このようなときこそ、客室乗務員は冷静に状況を見極めてお客様に安心感を与え、パイロットも操作を終えたら速やかにアナウンスをしてお客様の心配を取り除くことが必要です。客室乗務員への情報提供も速やかに行い、会社や管制との連絡などコーディネーションが大変重要な時です。
機長の仕事は、ただ飛行機を操縦するだけではなく、状況をマネージメントする能力も求められていることを知っていただければ嬉しいです。
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